キミの幸せだけを願っています

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男だけじゃない。女も、どうしてもセックスしたくなる時がある。 愛してくれる家族がいる。親友と呼べる友達がいる。好きだと言ってくれる男性がいる。仕事もある。生活に困らないお金もある。家もある。車もある。 それなのに、たった一人、どうしても欲しい男性に触れられないだけで、それらの恩恵は全て帳消しにされてしまう。 欲深い女。 あたしのことだ。 「ずるいね、俺。弱ってる時につけこんで」 麻宮さんじゃない。ずるいのは、卑怯なのは、あたしだ。 目を閉じたまま快楽に溺れていれば、相手を特定しないですむ。 聞こえる息づかいも、藤次郎が風邪をひいているんだと思い込めば簡単に置き換えられる。 今この世界で、あたしより“最低”という言葉が似合う人間は、きっといない。 「肌とか、髪とか、爪先とか、全部触ってみたいって、出逢ったときから思ってた」 あたしは、幸せだ。 「毎日、加賀さんのこと考えてる。仕事中もずっと」 「ちゃんと仕事してください」 「会いたいなーって、いつも思ってる」 幸せだ。 「あそこに一緒に行こうとか、美味しいもの食べに行ったり、旅行に連れて行こうとか、友達に自慢してやろうとか、色々想像してさ」 「楽しそう」 過ぎるぐらい、幸せだ。 「だから今が、過ぎるぐらい幸せだよ」 「…っ…麻宮さん、」 シーツにくるまって、後ろからあたしの体を抱く麻宮さん。顔だけ振り向ければ、バチッと目が合う。 綺麗な顔をしている。鋭い目つきに、泣き黒子。高い鼻に、薄い唇。色の白さ。 パッと見た瞬間、“仕事ができる男”に分類される顔だと思う。 「加賀さんは、綺麗な顔をしてるね」 「いや、麻宮さんの方が…」 そして、同じ思考回路。 「色白だし、目は大きいし、鼻は高いし、口は小さいし。顔も小さい。加賀さんみたいな人を、本当の美人っていうんだよ」 「やっぱり、褒め慣れてますね」 「そりゃ、営業ですから」 こういう他愛もない会話ができるようになった。 出逢った頃に比べたら、かなり気兼ねのない関係になった。 そんな関係を、少しずつ心地いいと感じられるようになった。 麻宮さんという選択は間違いないと、少しずつだけど確信を持てるようになった。 きっとこれが、最良の選択だ。
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