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「由宇ー!!!」
実家の玄関を開けるや否や、巨体があたしの体を包み込んだ。というよりも、雪崩れ込んできた。
「ちょっ、痛い痛い!お母さん、言っちゃったの?」
「言っちゃった。電話でちょっと話を出しただけなのよ、今朝」
そうしたら、すぐに飛んで帰ってきたという。
「明人くん、重いから退いて」
「いいか?いじめられたらすぐに帰ってきな?道に慣れるまで車は運転しないこと。電車通勤だぞ。マンションか?アパートか?オートロックはついてるか?何階建てだ?部屋は何階にある?ちゃんと南向き選んだか?毎週末、様子見に行くから!」
「お母さん、どうにかしてよ…」
高らかな笑い声を上げながら、お母さんが明人くんを宥める。
それでもまだ、電車通勤だと痴漢の心配が、なんて呟く次男。
ようやく解放されたところで奥のリビングのドアを開ける。目に入ってきたのは、長男と三男の姿。
「慎平くんと透くんも、どうしたの?」
「最後の夜だし、家族でご飯でも食べに行こうかって」
「嫁に行くわけでもあるまいし」
家族思いでお父さん代わりのような慎平くん、無表情で素っ気ないけど、誰よりも優しい透くん。
明人くんと三人、あたしの自慢のお兄ちゃんたちだ。
「お父さんはね、同窓会の打ち合わせがあるからってさっき出て行ったのよ。あんまり時間はかからないと思うから、帰ってきたら出ましょ」
「うん」
この温かい家族の愛情を一身に受けて、あたしは育ってきた。
愛してくれる家族がいる。
親友と呼べる友達がいる。
好きだと言ってくれる男性がいる。
仕事もある。
生活に困らないお金もある。
家もある。
車もある。
だから、大丈夫。
絶対、大丈夫。
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