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麻宮さんの言う通り、空港は辺鄙なところにあった。
広島駅までバスに揺られながら、緑豊かな風景を眺めていた。
明日は支社にちゃんとたどり着けるかなとか、挨拶は短い方がいいかなとか、あたしより年下の子はいるかなとか、瀬戸くんに謝ろうとか。
明人くんの必死の説得で、車は持ってこないことにした。とにかく公共交通機関を使いなさいとのこと。痴漢の心配はさておき。
近場でも女の子の一人歩きは危険だからと、太っ腹なお兄ちゃんは電動自転車を買ってくれた。おそらく、今日の夕方に届く。
メールだよと、スマホが一回震える。
“そろそろ着く頃?”
家族に会うのはまだ早いと、朝、部屋の引き渡しに付き合ってくれてから帰った麻宮さん。
来週の土日、広島で会う約束をして別れた。
昨日の夜、家族でのご飯を終えてから、麻宮さんとの交際は始まった。
“多分、あと二十分ぐらいで広島駅に着くと思う”
敬語はやめた。仮にも恋人同士だから、年齢差はあっても違和感が残る。
素直に甘えてみようと思う、彼には。
一度寝たら、女は情が移りやすい。あたしも例には漏れない。
メールが来ると、嬉しい。電話が来ると、ドキドキする。
味気ない文面も、機械越しに少し高く聞こえる声も、きっとあたしは好きだ。
これからもっと、好きになる。大好きになる。
そしていつか、愛するようになる。
麻宮さんとの将来が、きっと待っている。
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