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それでも近付いて来る人物が居たら、犯人の可能性が出てくるという訳だ。
これが上川の考え。
「恋人がSPなんて、まるでラブストーリーだな」
「寒気がしますね」
「黙れ」
そんな刺のある会話を交わしながら時間をやり過ごし、定刻となった。
ホテルオーナーと、ゲスト代表、そしてシェフの挨拶と進行していく。
京介はエミリアになりきり凛として話を聞き、料理が運ばれてくれば周りが見惚れてしまう程の身のこなしで食事を摂っていく。
その姿に、それが偽者であるとは誰も思わない。
見るもの全てを魅了していく京介の横顔を隣で盗み見る上川は、能力でも口でも自分に食らい付いて来る部下の成長に未知数の可能性を感じて、口元を微かに緩めた。
ソルベが終わり、これからヴァントが運ばれるという所で、京介と上川は共に今までとは違う雰囲気を感じ取った。
それは殺気のような。
だがまだ距離を感じる。
場所も特定出来ない。
ただ、優美な場の空気の一点が、墨を落としたように濁っている事だけ分かった。
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