7人が本棚に入れています
本棚に追加
見上げた僕に女の子が話しかけて来た。
「プールの底にいて楽しい?」
「ウン」
「泳いでいる人達をただ見ている事だけが楽しいの?」
「し、仕方がないじゃないか!
女の子とお喋りしようとすると、顔が真っ赤になって、話しが出来なくなってしまうのだから」
「そうなの?
此処からだと日焼けで顔が黒い上に、日陰のせいで赤くなっているのはわからないわ」
「え!!本当に?」
「うん!
暇なら私とお喋りしない?」
「ぼ、僕で良いのなら。
それより、そんな所に座っていないで此処に来れば?」
「駄目なの。
体質で、日に当たると身体中に火膨れができて、呼吸困難になるから」
「そうなんだ」
その日から僕のプールでの過ごし方が変わる。
プールの脇にあるベンチに座り、塀の上に座る女の子とのお喋りに。
8月がそろそろ終わりを迎えるある日。
雲がかかる空を見上げながら、彼女が僕にある提案をしてきた。
「8月もそろそろ終わりね。
何処かに出かけない?」
「日の光に当たっても大丈夫なのかい?」
「日傘を差せば、これくらいの日差しなら大丈夫だと思うわ」
僕は暫しの間思案してから、返事を返す。
「そうだね、出かけよう」
更衣室で服に着替え、塀の外側の木の根元に行き、彼女に腕を差し伸べる。
彼女は塀の上から僕の胸に飛び込んで来た。
僕は生まれて初めて女の子と手を繋ぎ、プールから真っ直ぐ伸びる道を共に歩む。
最初のコメントを投稿しよう!