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「…もう、帰った方がいいな。…本当にすまなかったね。」
長門さんは、優しくそう言ってくれた。
「…謝らないでください。…私が…私から、したんですから。」
「どうして、俺のお願いきいてくれたんだい?」
「わかりません…勝手に体が動いてて…。」
「欲張っちゃ駄目だな、どんなことでも。それに、君は、俺の好きだった佳代じゃあないものな。
さっきのことは、誰にも言わないつもりだよ。老後のいい思い出だ。
それに、これ以上のことやったら、取り返しが着かなくなるからね。もう、おしまい。
それで、いいかな…?」
…忘れるとは、言ってくれないんだ。
そうだよね、私は、佳代さんの身代わりだもん。
「俺は、このことを墓場まで持っていくことにするよ。二人だけの秘密だな。」
秘密って言葉は、まるで、魔法の様に、私にまとわりついた。そして、私を、現実に引き戻す。
「…当たり前です。秘密に決まってます。」
長門さんには、奥さんも、私より年上の娘さんもいる。そして、私にも、近い将来、恋人ができる。
だから、これは、二人だけの秘密。墓場まで持っていくのは、当たり前。波風立たせないのは、当たり前。
「もう、気にしてませんから。明日も、支社に顔出しますよ。いつも通りに、挨拶もします。馬鹿な話もします。だから…長門さんも、いつも通りにしてください。」
それから、プロフィールの書かれた紙をヒラヒラさせて言ったの。
「ちゃんと、この彼を、私に紹介してくださいよ。でないと化けて出てやるから。」
「化けてって…。晴香ちゃんに夢枕に立たれちゃ敵わんな。そうならないように、約束するよ。」
「本当に約束ですよ。」
私は、笑顔でそう言ったの。
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