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「晴香ちゃんは、俺の初恋の相手に、ものすごく雰囲気が似てるんだ。晴香ちゃんと話をしているとな、まだ若かった頃の俺に戻ったような気持ちになるんだ。君は、私の娘より年下なのにね…。
話していると、自然に心が弾んでるんだ…。
それでな…言いにくいんだが…。」
「…なんですか?」
「…ああ…やっぱり、こんなこと頼めないな…。」
不審げな目で、長門さんを見てる私がいる。
その視線に気付いた長門さんは、バツの悪そうな顔をして、小さく溜め息を付いた。
「長門さん、なんなんですか?…私、すごく気になりますけど。」
少しの間、長門さんは、思案していた。どう私にいえばいいのかを。
「晴香ちゃん…本当にすまない。一度だけでいいんだ…抱き締めさせては、くれないだろうか?」
「はい?…あの、今、なんておっしゃいました?
聞き間違えでなければ、私を抱き締めさせてとか、なんとか言いましたよね?」
長門さんは、下を向いたまま、頷いた。
「男ってのは、本当に駄目な生き物だよ…。いつまでも昔のことにこだわって…。」
「…間違っていたらすいません。もしかして、長門さんの初恋の人に似てるから、私で、恋人の疑似体験したいんですか?」
返答がなかったけど、図星だったんだって、その後の様子でわかった。
「そんなことしたって、時間が戻るわけでも、その人と結ばれる訳でもないんですよ…。」
「わかってる。…それは、十分すぎるほどわかってるんだ。それでも、俺は、頭を下げて、お願いするしか出来ないんだ。」
私は、小さくなってしまった長門さんの側へ行って、優しく抱き締めてあげた。
「…これくらいなら、してあげます。」
驚いてる長門さんに続けて言ったの。
「目を閉じて、大好きだった初恋の相手を思い出してください。」
長門さんは、素直に目を閉じると、私をぎゅっと抱き締めた。
「佳代…好きだ…」
「はい。私も好きです。武志さん。」
泣きそうな長門さんの震える声に、私は、飲まれてしまって…三文芝居をしてしまった。
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