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十センチ程度しか離れていない距離で、頬をつままれたまま、目の前の瞳に射抜かれる。
目を反らしたいのに出来なくて、胸が凄く苦しくて。
音無くんの気持ちがどんどん迫って入ってくる。
さっきまで先輩先輩って思ってたのに、既にもう欠片もない。
その代わり。
空いた空間に音無くんが入ってきて、あっという間にいっぱいになっていく。
「返事しろ……旭」
低い声が名前を呼んで、どこを刺激したのか、一気に涙が滲んできた。
「……泣くほど嫌か?」
「……ううん、」
「…………、」
「嬉しいの。よろしく……お願いします」
音無くんはふっと微笑んで、つまんだ頬を離し撫でる。
「……なんで泣く?」
「分かん……ない。……なんか、グッときた」
「ははっ、そうか」
頬を撫でた手が移動して、頭に乗り滑り降りる。
何度も何度も頭の上から肩まで撫でおろす手に、ますます涙がにじんでしまう。
「っ!?泣きやまそうとしてるのに、余計泣く気か」
「そ、その手が涙腺刺激するんだよぉ」
離れていきそうになる手を引きとめたら、その手は私の涙をぬぐった。
時刻はまだ、5校時目の最中。
空高く上る太陽がまぶしい。
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