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2人寄り添って、壁に寄り掛かった。 青空を見上げて、飛行機雲を見つめた。 両手をうーんと空に伸ばして、掌を広げる。 心が軽くて、でもドキドキしていて、ピンク色で、食べたらきっと凄く甘い。 泣いたせいか、時々しゃくりあげるように息を吸って、深く息を吐く。 伸びたまま深呼吸して、下ろした手が暖かくなった。 ぎゅっと手が包まれるようにされる。 その仕草に顔をにやけさせていたら、音無くんが苦笑を洩らした。 「思い出し笑いか?」 「違うよっ!音無くんと手をつないだから!」 「くくっ、……旭」 「なに?」 「俺は“音無くん”のままか?」 「え?……なんて呼べばいいの?」 「……夕陽」 「ゆう、ひ?」 「俺の名前」 「わかった」 「くくっ、」 チャイムが鳴り響く。 5校時目が終わったようだ。 今日はもうHRで終了。 放課後になる。 「旭」 「んー?」 「まだ……野球、教えるか?」 隣を見上げたら、音無くんの、夕陽の前髪が風でなびいた。 「ううん。もういい」 「そうか」 「そのかわり、」 「うん?」 「夕陽のこと、教えて?」 満面の笑みを向けた私に、漆黒の夕陽が微笑んだ。 ~fin~
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