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「……あー?どの人ー?」
屋上に上がり、フェンス越しにグラウンドを見下ろした。
傍らでアイアイが目の上に手で影を作っている。
私はフェンスから手首を出し、指を差した。
「ほら!あの人!!今鎧みたいのつけてる!」
「プロテクター?」
「そう!それ!!ぷろてくたー!!」
きゃーっと頬に手を当てる。
白いユニフォームに黒のインナー、黒いキャップとソックスのその人は、野球部だ。
「1年……じゃないよな?見ない顔だし」
「うん。多分、先輩。あの先輩が大きな声だすとみんなが返事するんだぁ」
「そりゃそうだろうな。キャッチャーだし」
わかったような口調のアイアイを見上げたら、呆れたようにため息吐いてこつんと小突かれた。
「かっこいー!って騒ぐなら、ちょっとは野球のヤの字くらいは勉強しろよ」
アイアイはそう言って、ひらりと手を振ると鞄片手にさっさと帰って行ってしまった。
野球のやの字?
「野球の“ヤ”は野原の野でしょ」
流石にそれくらい私にだってわかるし。
口をとがらせて呟いた後ろで
「ぶはっ!」
思い切り噴き出した声がした。
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