第1章 僕が出会った5人の女の子たち

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教室も冷房は来月から、と決まっているようで、クーラーではなく壁に掛かっている小さな扇風機が回っていただけだった。 教室の両側にある2つの扇風機は、わざと避けているかのように僕の席辺りには全く風を送ってくれず、ずっと火照った体のまま授業を受けていたことを思い出した。 外でダラダラと大汗をかいた訳じゃないけれど、気付かないうちにジワジワと僕の体から水分が奪われていたんだ・・・。 「でも、僕・・・自分の水筒のお茶をちゃんと飲んでましたよ」 今はもう1・5リットル入る水筒の中身は空っぽだ。 「お茶じゃ、あかんねん」 「え?どうして・・・」 「脱水はな、体液不足が原因やねん。体液って知ってるか?水と電解質や!電解質っつうのは、いわゆる塩分やな。塩や!だから、塩が入ってへん水やお茶ばっか飲んでると、逆にどんどん体液が薄うなって症状が悪化してしまうんよ」 「そういう時は、のどの渇きにも気付きにくいからね」 そうだったのか・・・。 気持ち悪い、イコール、何か悪いモノを食べた。 そう思っていた僕には青天の霹靂だ。 母さん、いろいろ疑ってごめん。 「脱水症状での危険サインが、頭痛、めまい、吐き気、だるさ、手足のふるえの5つ。そうなってくると血圧も下がってきて危ないんだよ」 ワンレン女子が細い眉毛をひそめて、心配そうに僕を見て言った。 彼女と関西弁女子って・・・さっきから医学書に載っているような診断内容を、サラッと話してくれるけど・・・。 一体、何者? 「そこまできたら、ほんまは病院で点滴受けるレベルなんやけどな」 「て、点滴!?」 つい大声を出してしまった。 予防接種でも僕にとっては一大事なのに、注射針をずっと腕に付けている点滴なんて恐ろしすぎて震え上がってしまう。 「注射、苦手なのね」 クスッと笑ったのは、ワンレン女子と一緒に僕を抱きかかえて椅子に座らせてくれた、ハスキーな声の女の子。 5人の一番右に立っていた。 ワンレン女子と同じくらい背が高い! 右耳の後ろで一つに結んだ黒くてまっすぐできれいな髪は、胸辺りまである。 前髪はその反対側に流している。 長いまつ毛で、彼女の切れ長で黒目がちな瞳が隠れそうだ。 少し鷲鼻で面長な顔の輪郭が、大人びた雰囲気を醸し出している。 左目の下にある涙ぼくろが、またなんとも・・・色っぽい。
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