第1章 僕が出会った5人の女の子たち

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だめだ・・・。 次の駅で降りよう・・・。 ガタンガタンと一定のリズムに揺れる電車の振動が、白いスニーカーの靴底から全身に伝わり、さらに僕を追い詰める。 一体・・・何が悪かったんだ? 扉の前に突っ立ったまま、顔をゆがめて窓の外を見る。 速い電車から次々と逃げるように去っていく家やビルを見ていたら、さらに気持ち悪くなってきた。 急いで視線を遠い空に切り替える。 重そうな灰色の雲が、大きな布を広げていくように空を覆い始めている。 風の影響で輪郭が次々と変わっていくその雲を、ボーっと見ながら考える。 朝ごはんの目玉焼き? いや、今朝のは母さんが 「ごめ~ん!焼きすぎちゃった~!賢ちゃん半熟が好きなのにね~」 と、僕に謝るほど、カッチカチの黄身だったよな。 刺したフォークが立ってしまうくらい硬かった。 昼の弁当!? いやいや、それも母さんが 「ごめ~ん!今日のお弁当、全部冷食なの~!バタバタしてたら時間無くなっちゃって~。でもね、賢ちゃんが冷食の中で一番好きな『たらこスパ』入れといたから、許して!」 弁当箱2段分の中身は、全部その通りのものが並んでいたし、おにぎりも冷食の『焼きおにぎり』だった。 パーフェクトな冷食弁当あっぱれ。 急にガタンと車両が大きく揺れた。 扉の横にある縦に長く固定された手すりを、ちゃんと右手で掴んでいたのに体勢を維持できず、体力テストの反復横跳びのステップを踏むみたいに横に2歩よろけた。 おかしいな・・・。 手に、いつもの力が入らない。 感覚が鈍くなってる? 不安になって、手すりを掴んだままの右手をじっと見る。 今の反復横跳びで、掛けている黒縁メガネがずれた。 左手の中指でブリッジ(左右のレンズをつないでいる部分)を押して、定位置に戻す。 メガネの内側に前髪が入る。 ぶんぶんと頭を振って、前髪を揺らす。 そろそろ眉毛上までの長さに切り揃えないと、生徒指導の怖い先生に叱られそうだ。 次の制服容姿指導日って、いつだったっけ? 今度の月曜の朝礼後か・・・? ん?その次の月曜だっけ? そんなに厳しくチェックされる訳じゃないけど、もし校則違反と判断されてしまったら、その違反内容を生徒手帳に記入され、必ず保護者に見せて署名捺印してもらうことになっている。 もちろん、僕は今まで一度もそんなことはないけど・・・帰ったらすぐ切ろう。
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