第1章 僕が出会った5人の女の子たち

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おぉっと・・・なんだか・・・クラクラしてきたぞ・・・。 頭を振ったからか? 右手の上に左手を重ねるようにして、感覚の鈍い両手で手すりを握りしめた。 さっき見た灰色の雲が、少し電車に近づいてきたような気がする。 大きなカラスが、慌てるように電線から飛び立っていった。 あの雨雲が自分の方に向かってきていることを、察知したからだろうか? 昨日、関東地方の梅雨入りが発表された。 例年通りの時期ですね!と、各テレビのお天気おじさんやお姉さんたちが口々に言っていた。 予想だと、梅雨明けは来月の上旬らしい。 『今日はかなり湿度が高く、蒸し暑くなるでしょう。こういう時期、やはり一番気を付けたいのが食中毒ですね。食材の調理方法には十分お気を付けください。また食品の保管の仕方も・・・』 僕の一番お気に入りで、ショートカットがよく似合うお天気お姉さんが、眉をひそめて心配そうな表情で話していたっけ。 朝食後、片付け終わったテーブルの上を布巾で拭きながら、母さんも一緒にテレビ画面に映る彼女を観ていた。 「あら~、今日のワンピースもかわいらしいじゃない!この子は色白だから、淡い色がよく似合うわよね~」 お母さんも若い頃はこういう色が似合ってたんだけどな~・・・なんて、自分のことを引き合いに出しながら、ため息をついていた。 そして、僕の弁当袋の中には、小さめの保冷剤が3つも入っていた。 母さんのことだから、彼女のコメントを聞いて急いで投げ入れたのだろう。 弁当袋の中でバラバラに転がっていた。 予報通り、朝からかなりの蒸し暑さになり、僕がお弁当袋を開けた時には全部ふにゃふにゃに溶けていた。 当然、溶けた時の水滴が弁当箱を包んでいたハンカチや弁当袋を濡らしていた。 以前にも同じことがあったから、保冷剤を入れる時は、ビニール袋に入れるとか、何か対策をしてほしい!と頼んだのに・・・ ま、母さんのおっちょこちょいと忘れんぼうなところは、変わりそうにないからな。 僕が気を付けるしかないんだろうけど。 でも、そこまで母さんなりに対策をしてくれた弁当で、僕がこういう症状に陥るとは思えない・・・。 ふぅ・・・暑い。 体が火照っている。 半袖のワイシャツを着てこればよかった・・・。 ちょっと後悔しながら、今着ている長袖の袖口をうらめしく見た。
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