第1章 僕が出会った5人の女の子たち

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僕が通っている中学校では、5月下旬から6月中旬まで、制服移行期間が設けられている。 その間は、冬服、夏服どちらを着てもいい。 さすがに、6月に入ってから学ランを着ることはなかったけど、梅雨に入る前から肌寒かったり、蒸し暑かったりと不安定な天候が続いているから、着ていくワイシャツを長袖にするか半袖にするか・・・毎朝、結構悩んでしまう。 今朝の僕の選択は、見事に失敗したようだ。 ワイシャツの胸元を指でつまんで、パタパタさせながら体の中のほてりを逃す。 冷房・・・つけてくれないかなぁ? ほとんどの鉄道会社は、車内の空調設定を車掌さんの自己判断に任せているそうだ。 この電車の車掌さんは、今日はまだ空調をつけなくても大丈夫だ!と判断しているのかな・・・。 それに、土曜日の夕方で、電車の中はさほど混んでおらず、座ろうと思えばところどころ席は空いている。 すごく混んで、窓ガラスが湿気で曇ってしまった、という状況でもないし・・・節電対策もあるのだろう。 だからと言って、今にも雨が落ちてきそうな天気なのに、窓を開けよう!などという乗客はいないし・・・。 あぁ、早くこの電車から降りたい。 窓ガラスに額が付きそうなくらい、扉に近寄る。 折り畳み傘、持ってきておいて良かったな・・・。 空模様を確認しながら、心からそう思った。 今朝、玄関で靴を履いている時に、母さんにしつこく持っていくように言われた。 面倒くさいし、リュックの中にも入りそうにないから、いらない!って言ったのに、無理やり押し付けてきた。 ・・・この様子だと、役に立ちそうだな。 きっと、家に帰ったら、母さんのどや顔を見ることになるのだろう・・・。 ふと、視界がぶれるような気がした。 さっきからずっと目で追っていた雨雲の、色が、形が、ぼやける。 焦点が・・・合わない? 慌てて、メガネのレンズの内側に人差し指を入れて、目をこすってみる。 ん~・・・やっぱり見えづらい。 『次は~、矢田瀬~、矢田瀬~、お出口は左側です』 電車内のアナウンスが流れた。 よかった、僕が立っている側の扉が開く。 すぐに降りよう。 感覚が鈍くなってきた両手で、背負っているリュックの肩ひもを握る。 僕の中学校の指定リュックは、紺色一色でなんとも古臭い、地味なデザインだ。
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