第1章 僕が出会った5人の女の子たち

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正面には、大き目のファスナー付きポケットが一つ。 そこに、校章マークが白く浮き上がったようにプリントされている。 リュックの両側には、マジックテープ付きのポケットが付いている。 僕はここを改良してほしい。 開け閉めする度にビリリッと大きな鈍い音が響き渡るし、マジックテープにゴミが溜まってしまうのが嫌だ。 在校生は当然だが、保護者たちからもいい評判は得られていないこのリュックを、女子生徒たちが 「ホントこれ、何とかならないの?」 「まじダサ過ぎー!」 などと、いつもぶつぶつ文句を言っている。 そんなすこぶる評判の悪いリュックを、女子生徒たちはもちろん、男子生徒たちも好きなキャラクターのストラップやアイドルのコンサートグッズなどで装飾している。 各々があの手この手で少しでも気に入るようにしようと、努力をしていた。 あまり派手だと先生から注意を受けてしまうが『外しておけよ~』と、やんわり言われる程度だ。 僕は、何一つ付けていない。 逆に付けていない方が目立って、自分のリュックだと見分けがついていい、と思っている。 これを使い始めて三年目。 さすがにもう、ところどころ糸がほつれていたり、黒ずんだりしている。 校章マークもほとんど消えていて、ただの汚い白いシミのようだ。 でもなぜか・・・どこも破れていない。 ナイロン素材で生地もそんなに厚くないのに・・・。 結構乱暴に扱っているのに、不思議だ。 きっとこの調子で、残りの中学生活も一緒に過ごしていけるだろう。 今日はこの中に、さっきまで塾で使っていた参考書やテキストがたくさん入っている。 奇跡的に保冷剤の汗で濡れることはなかった。 よかった・・・。 あぁ、でも・・・あれは濡れても良かったな・・・。 むしろ、濡れて何も見えなくなってしまえば良かったのに・・・。 はぁ・・・それを思い出したからか、さらに気持ちが悪くなってきたぞ。 『矢田瀬~、矢田瀬~』 アナウンスが聞こえたと同時に、僕が立っていた目の前の扉が静かに開いた。 すぐに飛び降りる。 ムッとした暑さと湿った風が、僕の顔や首筋にまとわりつく。 朝から照らしていた日差しは、もうすっかり雲に隠れているのに、この嫌な暑さだけは行き場所もなく地上にずっと漂っているみたいだ。 うわぁ・・・気持ち悪い。 これじゃあ、電車の中の方がまだマシだったかも・・・。 『2番線、扉が閉まります。ご注意ください』
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