第3章 僕の入学式(前編)

12/14
前へ
/669ページ
次へ
まったく・・・本当に、本当に母さんは・・・。 「親バカ、だね」 「あら、今頃気付いたの~?」 一緒に笑った。 僕は、最近やっと母さんの身長を超えた。 母さんの頭頂部に、カラーリングをしてからしばらくして伸びてきた、白髪が数本見えた。 毛先に少しパーマをかけた肩くらいまでの長さの髪の毛を、いつも両耳に掛けている。 その耳の生え際にも、ちらほら同じものが見える。 また・・・気苦労をかけちゃうな・・・。 鼻歌を口ずさみながら、小鍋を火にかけている母さんを見ながら、申し訳ない気持ちになった。 その日の夜、僕は父さんにも宣言した。 どうしても、都立聖蔭高校を受験したい、入学したい!と、伝えた。 そこで、マンツーマンで対応してくれる塾に通わせてほしい!とお願いした。 この短期間で聖蔭高校を目指すには、自分とちゃんと向き合って頑張っていくしかない!と思ったからだ。 残念ながら、今通っている塾は誰もが知っている大手塾だが、そういう対応は望めない。 リビングの床に正座して、頼み込む。 父さんはソファに座ったまま、腕組をして静かに目を閉じ、しばらく考え込んでいた。 20秒程してから、パッと目を見開いた父さんは 「賢一がそこまでやる気になってる、今でしょ!」 と、右手の人差し指を立てて、大きな声で言った。 その様子を見ていた妹が 「はぁ?それ、もう古いし!」 と、冷たい視線を送って鼻で笑った。 数日後、父さんと2人で、最寄り駅の商業ビル内にある、こじんまりとした個人対応塾を見学した。 父さんより少し若そうな、サラリーマン風の塾長が僕らを笑顔で迎えてくれた。 僕の成績表を包み隠さず見せ、志望校が聖蔭高校だと話しても、困った顔一つせず 「一緒に頑張っていきましょう!」 と、力強くしっかりと握手してくれた。 父さんも安心した様子だった。 それから、学校の担任にも相談した。 僕の突然の宣言を聞いた先生は 「はぁ?!」 と、大声を上げ、目が飛び出るんじゃないかー?っていうくらい、びっくりした顔をした。 ま、それが、当たり前の反応だと思う。 大学を卒業してまだ3、4年しか経っていない、若い先生だ。 その年齢で、受験生の中学三年生を受け持つのだから、教師として学校からの信頼も厚いのだろう。 生徒たちからも人気があった。 自分自身を落ち着かせるために、彼女は2、3回深呼吸した。 僕も一緒に深呼吸する。
/669ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加