第3章 僕の入学式(前編)

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それから、ものすごい勢いで、僕の今まで2年分の成績表の書類を、バババッと全て見直した。 「うん・・・うん・・・」 それらの書類から目を離さず、ものすごく厳しい顔をして頷いている。 僕は気が気じゃなかった。 「渡会君」 「は、はい!」 どうしよう・・・やっぱりダメだって、言われるのかな・・・。 先生は、机に両肘をついて、グイッと僕の顔を覗き込んできた。 彼女の一重の細い目が、いつもの倍に見開いていた。 「英語は大丈夫。よく頑張っていますから、このままの調子でいきましょう。数学と理科も怪しいですが、基本は理解できているようなので、もう少しレベルを上げた応用問題を中心に問題を解くように!一番の問題は、国語と社会です。この教科を底上げしましょう」 「はい!」 「2学期が勝負です。というか、もう2学期しかありませんよ!時間はどんどん過ぎていきます!夏休みは一日もないと思って、死に物狂いで頑張れますか?」 「はい!」 僕の力の入った返事を聞いて、彼女はいつもの細い目に戻った。 「体調には十分気を付けて、聖蔭高校目指して、頑張りましょうね!」 「はい!」 でも、やはり、というか当然、万が一、成績が思うように伸びなかった時のための受験校選びも、たくさん提案してくれた。 妹は、僕が聖蔭高校へ入ったら、バスケ部5人に会いに行く口実ができる!と、喜んでいた。 「でも、入れたら・・・よね?大丈夫!期待してないから、安心して頑張って!」 と、微妙な応援?をされた。 妹はもちろん、他の誰にも、矢田瀬駅での一件は話していない。 特に妹なんかに話したら、いろいろと面倒くさそうだから絶対内緒にするつもりだ。 『できっこないと思う夢ほど、周りに堂々と宣言すんねん!そうやって、自分を追い込まんと掴めへん夢もあるんやで!』 関西弁女子の言葉通り、僕は自分を追い込んだ。 もう絶対に後戻りができない状況にした。 かなり不安を覚えたが、もうやるしかなかった。 あの時飲んだスポーツドリンクは、僕のラッキーアイテムのような存在となった。 いつも欠かさず買って、冷蔵庫にしのばせていた。 途中、何度もあきらめかけたし、後悔したこともあった。 辛くなった時、苦しくなった時、もうだめだ!と心折れそうになった時、僕は必ずそれを飲んだ。
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