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もう一度、黒板の文字を読み返す。
『ようこそ我が聖蔭高校へ!』
もう・・・その文字が涙ぐんで見えなくなってきた。
周りにバレないように、また運動場に視線を移す。
そっとメガネの内側に人差し指を入れて、目尻の涙を拭った。
ざわざわと落ち着かない教室の雰囲気を、視線をそのままに感じ取っていた。
同じ中学校出身の子たちもいるのだろう。
もうすでに楽しく会話をしているのが聞こえる。
女子たちがここの制服のダメ出しをしていたり、男子たちはこれから始まる入学式がめんどくさいだの、一緒に来た母さんがうざいだの、言っているのが聞こえた。
机に片肘をついて、ゆっくりと教室内を見渡す。
机に座ったまましゃべっている生徒もいれば、数人で集まって立ち話をしている生徒たちもいる。
既に、みんなが仲良くなってしまったかのように思える。
あー、僕はこのまま、孤立していくのかな・・・。
自分が座っている出島が、どんどんみんなから離れていくような気がした。
その時だった。
大きな声が教室に響き渡った。
「あの~、渡会賢一くん、いますか~?」
一瞬、教室内が静まり返った。
かわいい声だなぁ・・・。
ん・・・?渡会・・・僕?
驚いて声のする方を見る。
さっき僕が入ってきた教室前方のドアから、ひょっこりと顔をのぞかせている女の子が1人。
あ、彼女は!!
「あー、いたいた!賢ちゃん!」
センター女子だ!
僕を見つけて手を振ってくれている!
彼女の視線の先を追うように、クラス中のみんなが一斉に僕を見た。
僕は、驚きとうれしさで椅子を倒しそうな勢いで立ち上がり、教室の机と人混みを縫いながら、いそいそとセンター女子に会いに行った。
みんなの視線がヒシヒシと背中に伝わる。
緊張しながら、センター女子の前に立った。
「ご入学おめでとうございます!」
あ~、極上の笑顔はあの時のままだ!
「あ、ありがとうございます。ご丁寧にそんな・・・。」
「制服、似合ってますよ!」
「そ、そうですか?ありがとうございます」
あ~、ホントにかわいい!
彼女の大きな瞳に吸い込まれそうになる。
今日の髪型もポニーテールなんだな。
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