第4章 僕の入学式(後編)

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女の子のために、何かを選ぶなんて生まれて初めてだったから、すごく悩んだ。 センター女子に似合いそうな・・・かわいらしくて・・・やっぱりピンク色かなぁ。 ドキドキしながら一生懸命選んだのは、薄いブルー地に桜の花びらがたくさん描かれている紙袋。 「今日の日に、ピッタリね!」 極上の笑顔で喜んでくれた。 よかった。 ホッと胸をなでおろす。 そしてまた2人で笑った。 あれ?そういえば・・・。 「あの・・・以前一緒だった、その・・・他の方たちは?」 そうだ。あと4人の女子たちは・・・。 「・・・会わなかった?受付で」 キョトンとした表情で、逆に僕に聞いてきた。 受付・・・? 「一人、受付の係をしてたはずなんだけど・・・」 僕は、母さんと一緒に受付を済ませた。 僕らが行った時は、もうそれぞれ各クラスごとに長い列ができていて、しばらく並んだ。 今、僕の胸にある造花をつけてくれたのは、男子生徒だったし・・・。 その場所で4人のうちの誰かに会ったとか、見かけたということは・・・なかったと思う。 「担当していたクラスが違ったのかしら・・・?」 「えぇ、それに僕が行った時、かなり混んでいましたし・・・」 「そっか・・・。」 センター女子は少し残念そうに笑いながら、僕の肩越しから黒板の上にある丸い掛け時計を見た。 「じゃあ、私、自分の教室に戻るね!賢ちゃん、これからどうぞよろしくお願いします!」 そう言って、彼女はそっと右手を出した。 「あ、どうも、こちらこそ、よろしくお願いします!」 びっくりして、僕はつい両手で彼女の手を握ってしまった。 彼女は、僕が渡した紙袋をブレザーのポケットに入れて、僕の両手の上に左手を添えてやさしく握り返してくれた。 これじゃあ、どっかのアイドルの握手会みたいだ。 僕も廊下へ出て、少し早歩きで去っていく彼女を見送る。 A組の前を曲がって階段へ向かうまで、ずっと見届けた。 にやけた顔のまま教室へ入ると、クラスのみんなの視線を一斉に浴びた。 な、なんだ・・・? 不思議に思いながらも、黒縁メガネのブリッジ部分を中指で押さえて下を向く。 うつむき加減に孤立した自分の出島へ戻りかけた、その時 「ちょっとちょっとちょっと!!」 4、5人の男子たちが一斉に僕のところに寄ってきた。 「どういうこと?何?君はあの唯さんと知り合いなのか?」 は?唯・・・さん?
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