第1章 僕が出会った5人の女の子たち

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ホーム内に自動音声が流れて、警戒音がけたたましく鳴り響く。 その音にせかされるように、扉が閉まった。 少しずつ加速し、あっという間に走り去った電車が、ホームに留まっていた湿った重苦しい空気を連れて行ってくれた。 さっきより少し・・・心地良くなったかな。 ここ、矢田瀬駅は快速電車は停まらない。 他の路線とも交わっていないので、乗り換え客もいない。 あっという間に、がらんとした古びた冴えないホームになった。 土曜日の夕方で、通勤や通学のお客さんも少ないからだろう。 そうか、この駅・・・。 錆が目立つ緑色のベンチが、線路と並行して所々に設置してある。 その下で数羽の鳩が、ホームのコンクリートをくちばしで突きながらウロウロ歩いていた。 変わらないな・・・。 丁度、2年くらい前。 僕はここに来た。 友達にも家族にも誰にも言わず、この駅に一人で・・・。 目を輝かせて意気揚々と電車を降り、スキップしてしまうんじゃないか?というくらい、浮足立っていた。 電車から降りた乗客たちが、吸い込まれるように下りて行った階段の先に、この駅唯一の改札がある。 あの日、僕もここの階段を転がり落ちる勢いで下りていった。 その先には、僕の未来が待っている。 そう信じていた。 希望と憧れが入り混じったいつもより速い心臓の鼓動を聞きながら、この駅を出て向かった先は・・・。 あぁ、思い出してしまった。 いや・・・。 今日はずっと無意識に考えていたかもしれない。 塾であれをもらってから・・・。 こんな体調不良になって、たまたま降りた駅がここだなんて・・・。 なんて嫌味な偶然なんだ。 僕は、大きなため息をついた。 突然、視界がぐらりと歪んだ。 驚いて足で踏ん張ろうとするが、力が入らず、またふらつく。 駅の屋根を支えている柱にぶつかるようにもたれかかって、なんとか体勢を持ち直す。 これは・・・ちょっと、やばくないか? 胸の辺りからこみ上げてくる気持ち悪さも、治る様子がない。 今すぐ吐いてしまう程ではないけど・・・トイレに行っておいた方が良さそうだ。 トイレは・・・改札を出たところにあったっけ? 以前の記憶をたどる。 思い出せない。 というか、頭がぼんやりしてきた。 とりあえず、ちょっとベンチに座ろう・・・。 口に手を当てながら、近くの緑色の古臭いベンチの前までよろよろと歩いた。
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