8人が本棚に入れています
本棚に追加
中学校では野球部で、ポジションはサードだったらしい。
「夏の大会が終わってから、やっとここまで伸ばしたんだぜ~!」
と、うれしそうに頭をポンポン叩いた。
短髪でもなく長髪でもない、僕みたいな中途半端な長さだ。
高校生は坊主になりたくないから、違う部活に入ろうと考えているそうだ。
とても人懐っこい性格のようで、彼の前に並んでいる初対面の女子にも、以前から知り合いのように親しげに話している。
そして、何度も後ろを振り向いて僕のことを『賢ちゃん』と連呼し、その女子との会話に僕を混ぜてくれた。
僕と同じくらいの身長で、僕とよく似た髪型だけど、僕とは正反対の性格だな、と羨ましく思った。
そんな彼と一緒に談笑していたら、後ろから誰かの手が僕の右肩にポンと乗った。
反射的に振り返る。
「久しぶりね、賢ちゃん」
あ、あの、色っぽい女子!
「入学おめでとう」
「あ、ありがとうございます!」
僕の耳元で、ささやくようにお祝いの言葉を掛けてくれた。
彼女がホントに間近まで顔を寄せてくるから、僕は耳から顔全体まであっという間に真っ赤になってしまった。
そんなことを知ってか知らずか、彼女はそのままの位置に顔を留めたまま、僕と談笑していた山ピーに向かって言った。
「あら、お友達?」
彼女と目が合った途端、山ピーの顔もどんどん赤くなり、首元までピンクに染まる。
「俺、いや、僕、わ、わたくし、山下桔平と申します!」
ドモリ過ぎだが、元野球部らしくピシッと足を揃えておじぎした。
色っぽい女子がクスッと笑った。
「私は2年の仁志麗華。賢ちゃんのこと、よろしくね」
「はい!も、もちろんです!」
山ピーは、警察官みたいに右手をあげて肘を曲げ、敬礼した。
僕と色っぽい女子・・・いや、麗華さんが一緒に笑った。
笑いながら、彼女はようやく僕の耳元から顔を離し、少しかがんでいた体を伸ばした。
やはり、背が高い。175センチくらいありそうだ。
麗華さんの登場で、狭い廊下に並んでいる新入生たちが、ものすごく騒ぎ出した。
ポカーンと口を開けて彼女に見とれて、今にもその魅力に吸い込まれそうになっている男子たち。
女子たちは、キャーとかウソ―とか言いながら、彼女を崇めるように見ている。
彼女もまた、唯さん同様人気者なんだなぁ・・・。
最初のコメントを投稿しよう!