甘し氷菓と、星花火

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「……宗次郎」 「はいっ」 「葵の手から器と匙を取れ。 それから土間の洗い桶の横に葵が煮た小豆があるから、中間(ちゅうげん)部屋に行って十蔵と一緒に食べてこい」 「は? 兄上と、ですか?」 「ゆっくり食べてこい。いいか? “ゆっくり”だぞ? 分かったら、早く行け」 「はいっ、承知いたしました!」 一度の会話で『ゆっくり』と『早く』を同時に言われて、よく理解出来るわね、宗次郎さん。 すごいわ、さすがよ。 だてに『甲賀の影に十束有り』を自称してる訳じゃないわね。 「では、行ってまいります!」 パパッと私の手から器と匙を奪った宗次郎さんが、お家から飛び出していった。 「アイツ……。ゆっくりと言ったのに、走っていきやがった」 そりゃ、そうよ。 とらさんが『早く行け』って言ったんじゃない。 って思ったけど、一応空気を読んで黙っといた。 だって、落とされたら困るもん。
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