recycle1~八幡修司~

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石壁に覆われた小さな部屋で、 男はその頭を、 両手の自由を奪う拘束具に打ち付けた。 鈍い音が部屋に響き渡り、男の額は大きく裂けた。 「やめないか」 一枚の書類を手にした看守は静かに口を開く。 それでも男の感情は治まることを知らず、 何度も繰り返しその感情を拘束具へとぶつけた。 額から吹き出した鮮血は男の体を赤く染める。 「いい加減にしないか」 看守は男の両手を掴み、 煩わしそうな顔でその行為を止めた。 何層にも重なる石壁をすり抜けてきた雨水が男の顔を濡らす。 「このまま死なせてくれ」 男は小さく呟くと意識が遠くなり、 頭からゆっくりと崩れ落ちた。 狭い部屋に低い音が響き、男の頭は地についた。 薄れゆく意識の中で、一つの言葉が頭の中を流れる。 『助けて……』 少女の声は男の意識の全てを支配した。
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