12人が本棚に入れています
本棚に追加
1
「かつ丼定食二人前」
高層ビルが立ち並ぶオフィス街の路地裏に隠れた、築年数の経過した薄汚れた定食屋で遅めの昼食をとる松尾洋二と、同僚の沖谷雅彦は店員に注文を入れた。
「かつ丼定食二人前で三千円は高すぎないか」
無精ひげを生やした沖谷は咥えた煙草に火を付けながらぼやく。
「そうだな。ここ最近の急激な物価高騰は異常だ。
特に食糧の価格高騰は目も当てられん」
空いたグラスに水を注ぎながら松尾が答えた。
一口飲んで、あまりの消毒臭さにそのままグラスを置く。
その姿を見て沖谷も持ち上げたグラスをそっとテーブルに戻した。
「どっかの金持ち達が食糧を投機の対象にして
毎日のようにマネーゲームを行っているからな。
昔は原油だったが、今は食糧。
食べ物は生きるためには無くてはならないものだ、
それが手に入らない貧しい人間が何を起こすのか、
小学生でもわかるって話だ」
定食やの隅に設置されたテレビ画面には、
隣の国で起こった内戦の様子が映し出されていた。
「そんなことは関係ないんだろ奴らには。
むしろ増えすぎた人間がいい具合に減って満足しているぐらいだ。
それに反乱者は全員、即刻人資源にされ更に人口が減らせる。
あの内戦自体仕組まれたものだってことだ」
「それに気付かず立ち上がる民衆も民衆だな」
二人はテレビの画面から、運ばれてきたかつ丼に視線を移した。
最初のコメントを投稿しよう!