黄金色の風船

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「鳥多(とりた)アミューズメント施設の大資本の宣伝ですって、今日一日だけで町中に100万個の風船を飛ばすんだって!」  男の子の母親も感激して大はしゃぎで空を見つめたいた。  私は遥か上空に浮かんでいる鮮やかな色の風船が空を埋め尽くしている風景を見て、心の底から歓喜の声が自然と唇から出た。 「わあ!」  涙が止まった……。  私はその時、強く思った。  私は風船のように。あの遥か上空の風船のように自由になれたなら。……なれたなら……。  田舎道のみんなは空を見つめていた。  まるで万華鏡のような風船で埋め尽くされた大空の下を、父と母の居酒屋の二階へと上がった。  玄関で革靴を脱ぎ。キッチンへ入ると冷蔵庫を開ける。  少ない食材を選別して、制服のまま夕食の準備に取り掛かった。  午後の4時だが。深夜から早朝まで働く母はまだ寝ている。  簡単な夕食を作ると、自室で着替えをして風船で埋め尽くされた空を見上げた。  みんなは明るい将来のために必死に頑張っている。けれど、私の将来は決まっていて、学校という刑務所よりも、もっと暗いところ……。  一生をこじんまりとした居酒屋で働いて、それで人生が終わる?  でも、楽しいことって、急にやってくるものなのね……。  楽しいことって、自分で見つけられるのかしら?  そうだ! 学校を辞めて少しだけ自由を得よう! 探してみよう!    午後の5時になると母は起き出して、キッチンで夕食を待っていた私に微笑みを絶やさずに挨拶してきた。 「友紀(ゆき)。おはよう」  母はテレビを点けた。 「ママ。学校辞める! 私、決めたの! これから少しだけ自由にいさせて!」 「友紀……。まあ、いいわ。友紀はまだ若いんだもの。少し自分の時間を作った方がいいかも知れないわね。ただし、学校は辞めちゃダメ」  母の暖かい眼差しは、いつもと少し違って見えた。  ニュースの天気予報では明日も快晴だった。  
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