第1章

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新年が明けて二日目。 大晦日から降り出した雪は止むところを知らず、小さな城下町はあっという間に白い雪にこんもりと包まれてしまった。 「そろそろ、朝ごはん作りに行ってもいいかなぁ……」 夏目が布団の中で呟いた。まだ暗い外からは、遠く除雪車の動いている音が響いてくる。 休みの間はゆっくり寝ていればいいと言われていたが、いつもの時間に目が覚めてしまうのは、身体が覚えてしまっているから仕方がない。 店がある時は直接店の厨房で食事を作るが、休みの日は母屋の台所を使っていた。 余り早い時間に母屋に行っては迷惑だろうと、時計と睨めっこをしていたのだけれど。とうとう我慢できなくなった夏目が、むっくりと起き出した。 ……なるべく静かにしていればいいよね。秋月さんが起きたら、暖かい朝食を直ぐに食べられるようにしておきたいし。 自分を納得させる理由を見つけ出して、そそくさと着替えを終える。 「……ご飯が出来たら、起こしに行ってもいいかな……」 呟いた言葉に秋月の寝姿を想像して、独りで赤くなる。普段は夏目が食事の支度をしている間に、身支度を整えた秋月が店に来るから。起こしに行く必要などあった試しがないのだけれど。 「いや、いつも忙しくて疲れているんだから、こういう時くらいゆっくりとしてもらわなくっちゃ」 頭をぶんぶんと振りながら自分に言い聞かせて。寝泊りに使っている店の二階から降りていく。 なんだか暗いなと思いながら、店の玄関とは反対側にある母屋側の引き戸に手をかけた―――が、びくともしない。 「え?」 もう一度、今度は力を込めてみた。が、やはり戸は動かない。 「……ウソ」 店の玄関に回ってみれば、こちらも動かない。 「―――わ」 戻った二階の窓から見降ろせば。積もった雪に屋根から落ちた雪が加わって、見事に入り口は塞がれてしまっていた。未明から働き尽くめの除雪車も、街中の小さな路地まではまだ手が回らないようだ。 雪はすでに止んでいて、薄くなった雲の向こうには曙光が差し始めている。道路も庭木も何もかも、すっぽりと雪にくるまれて。モノクロに色を変えた低い町並みが登ってきた朝日の光を弾くさまに、夏目がしばし目を奪われた。
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