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ドサドサッ、ザーッと、ひとしきり雪が落ちて。その下から黒髪が顔を出す。ぺっぺっと口に入った雪を吐き出した。
「秋月さん?」
髪を一振りした秋月が腕の中で顔を上げる。思いも寄らぬ至近距離に、心臓がとくんとなった。
「―――阿呆ッ!」
耳元で怒鳴られて、夏目が思わず身体を引いた。
「雪が降ったときは、軒下は危ないんだ。雪かきをしていて屋根からの雪に潰されて、亡くなる人だっているんだからな!それを、君は―――」
―――くしょん。
言い募ろうとした秋月が、腕の中でくしゃみをした。夏目が慌てて立ち上がる。
「わ、秋月さん、髪ぐっしょりですよ」
早く早くと立ち上がれば、君もそうだろうと半分呆れた声が返ってきた。
「はい、生姜湯。蜂蜜もいれました。これ飲んで暖まってくださいね」
熱いシャワーを浴びて出てきた秋月に、夏目が湯気の立つ湯飲みを渡す。
「君も暖まって来い。着替えはとりあえず俺のを出しておいたから」
はい、と入れ替わりに夏目が浴室へと向かった。
「遅くなったけど、朝御飯にしましょう。お雑煮にお餅はいくつ入れますか?」
タオルで頭をがしがしと拭きながら、夏目が戻ってくる。
「あ、俺が焼こう」
秋月が焼き網の上に切り餅を並べる。餅が焼ける間にと、夏目が秋月の好物の出し巻き卵を作り始めた。銅製の卵焼き器に薄く油を引いて、流しいれた卵を手早く返していく。こんがりと焼き目のついたそれを厚めに切って、大根おろしを添える。
醤油仕立てのお雑煮の中は、小さな短冊に切った大根、人参、里芋にこんにゃく、ささがきの牛蒡に鶏肉と具たくさんだ。餅を入れて、上からイクラと三葉を散らした。寒くなってからは卓袱台の代わりになっている炬燵の上に、箸を並べる。
「また降ってきましたねぇ」
雪見障子の向こうに視線を流して、夏目。卵焼きをつまみながら、秋月が眉を寄せた。夏目、と呼ばれて、はいと夏目が視線を返す。
「雪がある間は、母屋の方に来ないか?」
「……え」
夏目が躊躇う表情を見せる。
「夜、風呂を使った後とか、店に戻るまでに凍えてしまうぞ」
母屋から店まではそう距離があるわけでもないけれど、真冬の夜中、それも吹雪だったりすると少々きつい事は確かだった。そんなことで風邪でも引いたらつまらない。
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