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「そうですね……」
客間を掃除しておくからと言われて、そんな部屋使えませんよと夏目が慌てた。
「どうせ空いてるんだから気にしなくていい」
「でも、客間なんて……」
やっぱり使えませんと言う夏目に、秋月がちょっと考える。
「なら、母屋の二階でもいいか?俺の隣の和室、狭いけど」
秋月さんの隣?
思わずまじまじと見つめた夏目を、怪訝そうに秋月が見返してきた。
「どうした?やっぱり客間の方が……」
「いえ!二階で―――お願いします」
不束者ですが、と夏目が頭を下げて見せるのに、馬鹿、と秋月が笑った。
「この部屋だ。俺の物がちょっと置いてあるが、邪魔なようだったら動かすから」
「あ、いえ、俺、たいしてモノないですから、このままで充分ですよ」
上がってきた二階。夏目は六畳の和室をぐるりと見回した。
本の詰まった書棚に、学生の頃使ってでもいたらしい古びた机。木製のブックエンドに挟まれた辞書は使い込まれて頁の縁がささくれ立っている。
鴨居の上にずらりと掛かった額は、剣道大会での賞状だ。
「剣道やってたんですか」
「中高校と、すこしな……日本武道が盛んな土地柄だから」
「うわ、これ、優勝じゃないですか」
すごいなぁと、夏目が感心した声を上げる。照れたように逸らした秋月の視線が、明るくなってきた窓に止まった。
「お、晴れてきたな……外の雪をかくか」
シャベルを持って通りに出れば、柳小路の商店街の面々もそろって雪かきを始めていた。
「おはようさん」
飴屋のご隠居は、着物に羽織のまま。どうやら高みの見物を決め込んでいるらしい。
「一晩でずいぶん積もりましたねぇ」
「こんなもの降った内にはいらないよ。昔は一階が埋まるくらい積もったもんだ」
「ほら、腰が入ってないよ!」
酒屋のおばあちゃんに背中をどつかれて、夏目が前にのめる。
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