第9話本居の賭け

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「冗談じゃないぞ洞爺湖サミットまで何日あると思ってるんだ」 ホテル内小宴会場 数人の男達が宴会をしている 芸者も侍らしている 男達の間をお銚子を持ってウロウロしている男達もいる いきなり襖が開き首藤が入って来る 中の一人が怒鳴った 「なんだ君無礼な」 すぐ男達は首藤だと気がつく 一人が言う 「理事官殿、お誘いしようと思ったんですが」 「署長、テロ対策まで所轄で引き受けるつもりなのかね」 「いや、今日は特別にその」 首藤は奥に座ってる男を睨む 「監察官、取り締まる立場でしょう 接待が悪いとは言わないがサミットまで日がない 外国人記者や外国政府関係者もすでに来日している 左翼系雑誌にすっぱ抜かれて記事にでもされたら、官官接待なんて今どき通ると思いますか」 監察官と言われた男が言った 「あまり堅い事は抜きにしましょう警視正殿、今回はうるさ型の次原警視監も所轄と親睦を深めるように言ってらっしゃるんだから」 「次原警視監がだと」 「さあどうぞ」 署長に無理やり空いた席に座らされる首藤である 署長はうやうやしくお銚子を傾けて首藤に杯を取るように迫る 「さあ理事官殿 はるばる北海道までご苦労様であります 今後とも我が署と署員をお引き立て下さい」 首藤は一度は杯を取るが署長を制止して杯を置く 「失礼する」 首藤は立ち上がり部屋を出て行く 襖の向こうから声が聞こえて来る 『あの方もおかた過ぎますな』 『まさか、次原警視監にねじ込まないだろうな』 『いくら何でも、あと少しで課長になるのに』 『わからんぞ』 それから数年 都内のある病院 首藤の病弱の妻がベッドに横たわっている その手を握りしめる首藤である 妻は言った 「ごめんなさいあなた、私なんかと結婚しなければあなたは長官だってなれる人なのに」 「俺は東大じゃないから最初から無理だよ、つまんない事心配しないで早く良くなった」 「私はだめ、私が死んだら誰か有力者の娘さんを」 「馬鹿な事を」 「お願い長官になって」 「出世なんて、君さえ生きててくれば」 妻の返事がない 「おい」 妻の身体を揺すっても妻は目覚めない 首藤は思わず怒鳴る 「先生」 待機していた医者とナースが飛び込んで来る 突き飛ばされて呆然と壁に寄りかかっている首藤 虚ろな目で言う
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