第十話グランドファーザー

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ぜひ捜査にお役立て下さい 直接お話出来ればいいんですが、この手紙があなたの元に届く頃には私は主に召されているでしょう 情報をあなたに伝えるには私は死ぬしかありませんでした しかしあなたはけして負担に感じる必要はありません これは私の選んだ道であり、もしかしたら汚れた私が少しでも天国の門に近づける手段なのかもしれないからです 私は若い時分ある事がきっかけで背徳的な者たちと深く関わっていた事がございます 今にしてみれば、何故あのような考えに心を奪われたのか あのような者たちと行動を共にしたのかわかりません しかし若く未熟だった私は私のお仕えする教派、いや宗派そのものに物足りなさと不満を持っていたのだと思います あの時は全てがおかしい状態でした バブルの後遺症が起こり政治は腐敗し、リストラの嵐のようになりました 真面目に働いていた人が職を失い路頭に迷いました 職場では互いの足の引っ張り合い、友を裏切り裏でけなしあう、なんとしても生き残りたい人々の浅ましさ人間の醜さが露呈した時代でありました 人々は苦しみから神に救いを求め 生き残るために行った自分の罪を懺悔しに教会に来たのです しかし我々司祭は何もしてやれませんでした。 ほっておけば自殺をするだろうと言う人間さえそのまま帰しました そんな時代ですから人々は怪しげな新興宗教に心を奪われてもせめる事は出来ません 司祭の私でさえ背徳の者達に魅了されて行ったのです。 彼らに魅了されるつれ私は何をしているのかもわからなくなりました 私はカトリックの司祭の身でありながら彼らに信者を紹介し始めたのです その頃私は通り一辺倒の説教で信者を押し返すカトリック教会のやり方に怒りさえ感じ始めていましたので救われない信者の方に密かに彼らを紹介したのです 彼らは信者を受け入れて救いの手を差し伸べても信者には何も求めず、こちらの礼拝には必ず寄越したので私は良い事をしていたと感じておりました 彼らに紹介した信者は悩みのない穏やかな顔となり、こちらで信仰もおろそかにしなかったのです しかしそれは間違いでした 彼らに紹介した信者は彼らの信仰に取り込まれ彼らの命令で二十信者として、こちらに派遣されていたのです 信者達は我々の宗派教派から彼らに信仰を改宗したにもかかわらす潜伏目的で戻っていたのです 私は思いました
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