パトリック問題

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「確かに無理にすり合わせれば考えられない事はないが飛躍しすぎだ 元ヤンらしくない 緻密に証拠を重ねて行くのが捜査だっていつも言ってるじゃないか」 「今回はそれではおさまらないかめしれない」 「元ヤン」 「俺達はとんでもない物に手をつけようとしてるのかもしれない もう手をつけてしまったのかも」 ドイツ公文書資料館特別保管所へ向かう地下通路 帝政ローマ時代名のこりのような花崗岩のような物で出来たトンネルが続く 暗い照明の中を歩いているのが名高と今井である 今井が言った 「いつまで続くんですかトンネルは」 「つくまでだ」 「こんな時すいませんが、ちょっと質問していいですか」 「なんだい」 「先生はもしかしら、あのミイラが誰なのかご存知じゃないでしょうか」 「ミイラ?」 「ボヘミア展で先生が聖痕の断罪とつぶやいたあの不気味なミイラです」 「ミイラは大概不気味だ」 「からかわないで下さい」 「知りたいのか」 「教えて下さい」 「知ってどうする?」 名高の態度に今井はついに切れた 今井は長身の名高の首ねっこをつかみ壁に押しつけた 「人の事を散々振り回しといてその態度はなんだ 俺は遊びに来てるんじゃないぞ」 「すまなかった悪気はないんだが」 「こちらこそ失礼しました」 「あくまで確証はないが、それでいいなら、あのミイラはヴィラーフ3世の物だと思う」 「三世、どこかの王様?」 「最初のボヘミア王を生んだプシュミスル朝の最後の王、元ハンガリー王だ 史実では暗殺されている事になっているが暗殺されたのは影武者だろう」 「暗殺って誰が」 「ボヘミア地区、特に王管領と言われたあの周辺は早くからヨーロッパの大貴族達が虎視眈々と狙っていた。しかし狙っていたのは貴族だけではない カトリックの総本山ローマ法王も、古くからあの地区に関心が強かった 文化も優れているし、聖人伝説があちらこちらにあるので布教上の拠点としても大変有意義だからな しかしあの地区は統治が難しく、すぐ反乱を起こされる場所だった それだけでなく混乱に漬け込み流浪民ユダヤ人が多く入植してくるのも頭の痛い問題だった 直接統治が困難だと考えたローマ法王や大貴族達は土着の中貴族による間接統治を考えた いわゆる傀儡しようとしたわけだ そこで選ばれたのはある地区で急速に勢力を拡大していたプシュミスル家だった
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