パトリック問題

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マスターはおずおず言った 「あの、違ったら、お詫びしますが」 真壁は次来ると思った 否定すればひつこく食い下がって来るだろう 肯定してしまう方がいい 真壁は口に指を当てた マスターは、それで全てを理解した 真壁がスキャンダルで芸能界を追われた事は了知している そう言った芸能人が一般人として生きている気持ちは察しがつく。 隠遁しているような気持ちで毎日を暮らしているのだろう 真壁は何とかマスターはあしらえたが、やはり気持ちが落ちつかなかった。 メニューを指差し真壁は言った 「これとこれ、いいですか」 「かしこまりましたマッ、お客さん」 真壁はサインの方を見てマスターの方を見ないようにした。 たくさんのサインはほとんど真壁の友人か知人のものだ それを知ると真壁はいらんしんぱいに気持ちが動いた 『みんな常連なのかな、まずいな』 その時サインの一つに目が行った それは赤城遼子の物だった 実家に近いから常連なのか しかし赤城はサインしない事て有名 草刈の方針で赤城は少し冷たくミステリアスな雰囲気を漂わせなければならなかったからだ サッカーの中田と同じで、それで世間は通っていた。 しかし近所では普通に振る舞ってるんだろう 真壁は聞いた 「赤城遼子の色紙ありますね 良く来るんですか」 グラスを拭いてたマスターは言った 「一度来ただけですよ」 「良くサインしましたね 結構有名ですよね彼女サインしないって」 「一度丁重に断れたんだけど 突然あの絵」 マスターは指で洗面所の近くにある絵を指した 「あの絵に近づくとしばらく眺めていて、色々聞いて来たんですよ それで話が終わるとバックからルージュを取り出し なんか書く物ありますかって言うからメモ用紙を渡したら 怒ったような顔になってカウンターの中に入って来て色紙に勝手にサインしてカウンターにお金を置いて帰っちゃいました」 「礼のつもりなんでしょうね 素直じゃないけど まあちょっと変わってますけどね」 「さすが良くご存知で」 「いじめないで下さい ところでどんな話をしたんですか」 「絵をお描きになるのと聞かれたから私が描いたんじゃないと」 「気にいったのかな」 真壁は絵の所に行って穴のあくほど見た 絵のサイズは学校で使う白版ほどで、どこにでもある風景画だった。
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