パトリック問題

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かなりやばいんで、モサドが監視している可能性だってあながち有り得ない事ではない」 「話をはぐらかさないで下さい 嘘なんですね」 「まあ、とんがらないで」 「一発殴っていいですか」 「おい、何を怒ってるんだ」 「当たり前でしょ こっちはかなり覚悟を決めたんだ だいたいブラックジョークなんてのは、あんたみたいに空気の読めない人間には絶対無理だ 今度ふざけた態度を取ったらソッコーボコシますよ」 今井は拳を固めた 「わかったわかった、お互いに自分の事をやろう」 今井は書架を探しに通路に行った しばらく今井は数冊の資料を持って帰って来て名高の近くで閲覧を始めた と言っても読むと言うよりページをめくってるだけと言う雰囲気だった さすがに大学の教養過程程度のドイツ語では資料は歯が立たない事を実感する今井だった 傍らの名高に助けを求めようにも強く接してしまった関係からばつが悪い それに名高にこんなドイツ語も読めないのかと思われるのもしゃくである 今井は読めるような振りをしてページをめくりつづけていた。 しかし突然今井が声を上げた 「これは」 その声は小さかったが、今井の攻撃性に遠ざかりたいと考えはじめていた名高を引きつけるほどであった。 「どうした今井君」 「あっ先生、このページの化学反応式なんですが私の記憶が間違っていなければ、これはサリンの物です」 「サリンって、あの神経ガスのサリンか」 「ナチが製造したと言うのは有名ですが これはその精製についての実験過程なんでしょうか 先生私のドイツ語では太刀打ちできません、お願いします」 今井はうやうやしく資料を差し出した 名高はとってペラペラ見た 名高はなにやらブツブツ言いながら首を傾げていた。 そして表紙を見た 「今井君、この資料はサリンの物じゃないぞ」 「えっサリンじゃないんですか 確かに、細かい所は覚えてませんが サリンじゃないとすると別の化学兵器ですか」 「化学兵器じゃない マイロンDRと表紙に書いてある」 「マイロンっていったい」 「ナチが終戦ギリギリに試作したと言われる一種の覚醒剤だ」 「覚醒剤」 「通常の覚醒剤が神経全般を刺激するのに対し、 この覚醒剤は、人間の本能的精神構造の一つ崇拝に関してのみ刺激する 信仰心のある者がこの薬を投与されると
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