パトリック問題

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孤独が当たり前になってしまっていて家庭に何かを求められなくなっている今井だった。 今井はいつの間にか名高と謎解きをすることにとりつかれている自分に気がついた。 『やっぱりこのまま東京には帰りたくない』 しかし何をやっていいのかわからなかった 今井はイライラする気持ちを抑えて追加注文をした。 しかし名高は帰って来なかった 状況が状況だから警察に連絡をしてもいいのではないだろうか しかしドイツではどうやって警察に援助を頼むんだろうか 日本の警察が戦前と様変わりしたようにドイツもきっと民主的になったのだろうが派出所があるのは日本だけらしい もっとも世界中で真似て取り入れているとも聞く 外国人にとっては小さな派出所でマンツーマンで相談したい、警察署でたらい回しにされたくない それに自分と名高の関係を説明しなければならない もちろん後ろめたいわけではないが学者と雑誌記者、それも外国人だから警察としては目的を知りたくなっても不思議ではない 根ほり葉ほり聞かれるかもしれない どんな国でも治安機関は外国人に対しては異常なほど警戒する、ましては研究者やマスコミ関係は特にアレルギーを感じて嫌われる 保安機関に見張られる可能性もある 我が国もそうだが暗い歴史を持つ国はどこか秘密主義を捨てられないのだ さっきまでの嬉しい気持ちや明るい気分が一度に失せてしまった ボーナスや昇給や昇進への期待は暗い気持ちに打ち消された もちろん名高の荷物を放り出して日本に戻る事は出来る 名高が路頭に迷おうとそんな事自分には関係ないのだ 名高だっていよいよとなれば大使館に頼むだろう 名高はドイツ語が堪能なのだから外国人が困った時にドイツでどこに頼ればいいかも調べられるはずだ 名高との腐れ縁も切れる 今井は本当に名高と運命を共にするかどこかで決めかねていた。 本心は自分にもわからなかった しかしこうなったならそれもまた一つの結果かもしれない 名高とは縁がなかったのだ しかし今井は思った 『もし先生が死んだなら、最後まで一緒にいた自分は世間の注目を浴びる その時見捨てた事がわかったら言い訳出来ない』 『それに、戻って来た時バックがなくなっていたら途方に暮れて自殺するかもしれない、何しろ精神がまともじゃないのだから』 その頃東京では日本カトリック教会中央審議会に
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