パトリック問題

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地面に食い込んでいた。 目の前で命を奪われかけたのに 『なんなんだ こいつは 気がつかないほど鈍いのか ならもう一発 今度は耳すれすれを狙って』 ヒュンと言うサイレンサーの音がして弾丸が入谷の耳元を掠めて背中に沿って地面に食い込んだ しかし入谷は全くたじろかず木を揺らし続けた リーダー格の身体に戦慄が走った 『くそ、もう容赦は出来ない 死んでもらう』 リーダー格は入谷の頭上に狙いを定めてシュートした しかし玉は完全に目標物を外した 『どうした事だ、俺ともあろう者が、あんな大きなダーゲットを外すなんて 木が揺れてるせいか』 その原因はすぐわかった 銃を持つ手が激しく揺れてるのである これでは照準が定まるわけはない そしてリーダー格は気がついた 手だけではなく身体全体が震えている事を これは戦場で敵に包囲された時のあの恐怖と同じ震えである 『こうなれば、下に降りてナイフで』 リーダー格はナイフを出して握った。 その時、とりつかれたように木に体当たりをかましていた入谷が初めて上を向いた 暗がりの中で顔が見えないのは当たり前だが、リーダー格は確かに見た いや暗さで見えないはずなのだから感じたと言うのが正しい その暗闇の中に光る2つの炎のような眼孔を 今でこそ、官の禄をはみ、大人しく世渡りしているとは言え かつては関東の不良を束ね、恐怖に陥れた入谷孝亮(たかあき)その人である 虎は、いくら飼い慣らしても、その本性を失う事はない 狙撃される命に迫る緊張感の中で抑えていた入谷の獣性が再び目を覚ましたようだ 傭兵として多くの戦場を渡り歩き死にかけた事も一度や二度ではないリーダー格も、その潜在的な破壊力、凶暴性に身体の震えが止まらなくなった その震えは痙攣まではっし始めていた。 それは理性で抑えようとしても全く受けつけなかった 死を超えた恐怖としか表現出来ないものだった その威圧感に抵抗するようにリーダー格は最後のあがきに出た 「集中攻撃だ 奴をやれ」 隠れていた配下達が一斉に木の下に突進して来た 手にはナイフや至近距離ようで強力なハンドガンを携えている 十人は軽く超えていた。 さすがの入谷でも絶対絶命と思われた時本居が動いた 「こっちだ」 飛び出した本居の開いた手の十本の指の間には街灯の照明に光った銀色の玉があった。
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