聖女へ

4/35

35人が本棚に入れています
本棚に追加
/336ページ
一本差し出した 副教区長は手を伸ばそうとしたが思わず手を引っ込めた 本居はにやりとして言った 「そうですか バチカンの顔色ね 色々大変だ じゃああの事がバレたら、もっと日本カトリック信徒は困るんでしょうね」 「何をおっしゃるんですか、我々には何の落ち度も」 「実は私警視庁本庁で麻薬を取り締まっておりました その関係でおかしな連中とも情報交換をする手ずるを持っていましてね」 副教区長の顔色が少し変わった 本居は続けた。 「随分前だそうですが、面白い話をききました ある若い司祭が教かいしになり受刑者に教誨した その時愚かにも自分の所属する教派の布教じみた事をやってしまった。 宗教教誨では布教目的ではないから教誨師協会では、この問題が大きく取り上げられた その鎮静化に悩んだ教派の日本支部の幹部はあろう事か大物の別宗派の幹部に事態の収拾を要請した 要請された宗派は東方正教会の日本支部 カトリック、プロテスタントとともにキリスト教三大宗派と呼ばれている東方正教会 その日本支部ハリストス日本教会首座司教M氏、西欧文化とアメリカの影響で決して著名度があるとは言えない正教会の地位をロシアとの人脈で北海道においては盤石にした人物です 一節には最後のロシア皇帝ロマノフ王朝の末裔でロシアマフィアとも繋がりがあると言われる人物 その人物の政治力を使いこの問題を解決した 東方正教会はバチカンのローマ法王の主導権さえ認めていない、ある意味プロテスタントよりカトリックから遠い宗派だ その力を借りてトラブルを解決した事はバチカンにとって耳障りのいい話じゃない しかし事はそれだけではすまなかった どこで聞きつけたのか脅迫者が現れた 多額の金を請求された幹部はあろう事か災害義援金として集めた金に手をつけてしまった まあ、バチカンが一人の男に振り回され主導権さえ奪われかねなかったあの時に比べればましでしょうがね」 副教区長はあきらめたように言った 「あなたは神を脅迫するつもりなのですか?」 「もちろん私も信仰は大事と考えております しかし私はもっと大事な物があります」 「なんですかそれは」 「事件の解決です」 「あなたはそれでも人間なんですか」 「もちろんそうです しかし私は人間である前に警察官です」
/336ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加