聖女へ

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「わかりました あなたには負けた しかしここでは不味い ご同行下さい」 副教区長は地下にある図書室に本居を案内した。 そこはわりと広い部屋だが図書室と言うより書庫だった おせいじも兼ねて本居は言った 「すごいな、教会の図書室なんてドラマでしか見た事ない 価値のある本があるんでしょうね」 「それはどうでしょうか しかし皆さんの考えておられる教会とは違う顔を教会は持っております」 「違う顔ですか」 「教会は研究機関なんです 教義の解釈を巡ってね 各教会で聖書の解釈を巡って争いが起こり、そして分離して教派となったのです その話はこの辺で ネストリウス派の話でしたね 包み隠さず申し上げますが、どの宗派、どの教派の教会がネストリウス派であるか、オフレコでも言えません」 「まだ隠すんですか」 「わからないんです 何故なら組織単位でネストリウス派の教義を支持してしまえば、日本のキリスト教世界からは、弾き出されてしまうからです」 「しかしネストリウス派は滅亡したアッシリア派と違い、カルデア教会でカトリックと合同している事実もあり」 「それは面向きです バチカンが公式にネストリウス派を嫌わないのは勢力が小さくヨーロッパから遠い所で布教してたからです 同じアジアでも隣りの中国とは違います 日本はカトリックとプロテスタントの縄張りです いや、縄張りと言ういい方は正しくないが」 「まだそうなんですか 随分前にローマ法王が進化論さえ寛容したのに」 「お恥ずかしいが しかしネストリウス派を堂々と掲げる宗教コミューンが、この北海道にも存在した時期がありました そのお話であればして差し上げられます」 「宗教コミューンですか」 「宗教コミューンには幾つかのタイプがあります 自然発生的に同じ宗教が共同生活を始める場合 これは教義にのっとり生活しようと人々が集まる場合です 他にも宗教勢力が宗派又は教派の力を強めるため信者をかこい込むために結成される物もあります」 「つまり後ろ盾のある宗教コミューンがあるんですね、背後には何らかの教派の人間がいると言う」 「後ろ盾と言う言い方はふさわしくないですが いくつかの宗教コミューンの教義の中にネストリウス派の考えを取り入れた物がありました」 「今はないと言う意味ですか」 「宗教コミューンその物が日本にはほとんどありません 理由は
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