聖女へ

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「それはいいが君は一体」 目だし帽は覆面を取った 短髪に濃いめのアラフォーの顔立ちが現れた 「君はアンビリバブルの」 「この前はどうも」 「やれやれ、狐の群れから抜けたら今度は狼か」 「そんな、凄い者じゃないですよ」 「礼は言っておく しかし協力は出来ない ここで失敬するよ」 名高は少し腰をかがめながら国道の方に向かった 今井は言った 「どこにお戻りになるんですか あっちこっち見張られてますよ」 名高は少し立ち止まったが言った 「君には関係ない話だ」 「少し調べさして貰ったんですが、妹さんがお亡くなりになってますね」 「それも君には関係ない」 「病死になってますが、妹さんの子供も同じ日に死んでいます、それも病死 親子が同じ日に死ぬなんて事故死か心中以外は考えにくい 医者を買収しましたね」 名高は振り向くと肩を震わせて言った 私が殺ったとでも言いたいのか」 「なら警察に調べて貰います、私も報道人ですから あなたはそんな人じゃない ただ貴方は何か隠している そしてそれに苦しみ続けている もしかしたらそれは聖痕の断罪に関わる事じゃないんですか」 名高はかなり狼狽したが平静を装って言った 「なんの事やらわかりかねるね」 しかし名高はよろめいて膝をついた。 今井は言った 「先生大丈夫ですか」 「話かけないでくれ」 名高は顔を両手で顔を覆ってしばらく震えていた。 名高の脳裏に工場の地下での光景が再現される ドアの所で膝をついていた名高はやがて力なく立ち上がる その視線の先に工場の暗い常備灯に照らされ少女が横たわっているのが見える 少女は眠ったように息絶えていた。 その両手は胸の上で組まれていた。 名高は少女に近づき抱きしめた 「なんて事を、何て事を」 女が呻く声がした。 名高はそちらを急いで見た ついたてで囲まれた事務所スペースのドアの下から真っ赤な血が流れて床を染めていた。 名高は何度も額を地面に叩きつけていた その様子は精神異常者にさえ見えた 今井は必死にそれを止めようとしたがその時今井の心に悪魔が囁いた 『今なら、心が動くかも』 今井は名高の前で土下座をした。 「先生、私とチェコに同行して下さい 先生の苦しみを和らげるためにも」 名高は巨体をゆらっと起こして立ち上がって今井を見下ろした。
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