聖女へ

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「それでしたらミキサーを媒介にして、いつでも消しピーを入れられるようにすれば」 「OA(音声音響担当)クルーの君としては自信があるのか」 「はいやれると思います」 ディレクターは腕を組んで考えた サブディレクターは反対した。 「放送局のコンプライアンス上やり過ぎです 総務省に目をつけられます 」 ディレクターは数字を見た リアルタイムオンラインでは全てはわからない それが視聴率神話の問題だ しかし今日だけは世帯視聴率と個人視聴率の動きはかなり一致してるだろう 戦後すぐの視聴者達のように家族が一台のテレビの前で息を呑んでいる そんな情景がディレクター他クルー達の脳裏に浮かんでいた。 普段テレビマン達が何をしても動かない視聴率の壁と言う大きな岩が今なら大きく動くような期待がテレビマン達の理性をおかしくしていた。 テレビマンと言うお祭り屋の本能が出口を求めて奔流のようになっていた。 その時ADが帰って来た 「チーフ」 そして指を丸く曲げた 「キューです、」 サブの中は湧いた 音声音響担当クルーが再び言った 「やるしかないです 今は押してますけど、枠を拡張したら尺あまり(放送時間が余る)になります プライムだけでなくオールタイムの平均数字がガタガタになります」 ディレクターは決断した。 「手が開いてる奴はクレイマー担当に回れ 特に役所筋の探りクレイムには気をつけろ 番記者からの質問はこっちに上げなくていい」 「キャスターにはどうしましょう」 「この程度で慌てふためく人じゃない 連絡なしでいい」 サブディレクターが口を挟んだ 「モニターセンサーのデータは上がりませんが、盛り上がり度はかなり高い数値です無茶は止めて下さい」 「うちのモニター視聴率はビデオリサーチの正式な物と誤差を少なくするため予測修正されてるんだ この世界で大事なのはビデオリサーチの出す数字だ 本当の人気じゃない」 視聴率神話から抜けられないチーフディレクターはかなり危険な賭けに出た スタジオと視聴者とをダイレクトに結ぶ生電話は、あの有名な番組でも視聴者との事前のやり取りが存在する しかし電話の情報提供や抗議はもちろん段取りは出来ない 従って流す事自体放送事故と言える しかし過去放送事故と解釈される番組が平気で流された例は枚挙にいとまがない その時のテレビマン達の
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