第9話本居の賭け

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小さなテーブルを挟み 対面するように座椅子に座っているのは幹事長と官房長である 二人とも恐ろしい顔で相手を睨むようにして見ている 幹事長が言った 「だから止めろと言ったんだ 貴様ら警察は、我が国をあの時本当の亡国にしてしまった」 「あの時には、それしか方法はなかった 一国も早く回収しなければ、もしあれが自衛隊の過激分子や急進左翼の手に渡ったら、首都は、いや日本国はどうなるかわからなかった」 「例え百万嫌東京大阪その他の主要都市の人口を失っても、自重すべきだった 切り札だったんだ」 「国敗れても山河あり、この国は恥を捨て生き延びた国だ 我々は先人の知恵に従ったに過ぎない 何も出来なかった無能な政治家達が苦渋の選択をした我々を批判できるのか」 幹事長は答えず苦い顔をした。 官房長は言い過ぎたと再びへりくだった 「我々警察は差し違える覚悟で必ずあれを取り返します しかしとりあえずは大人しく服従して好機をまつしかありません」 「あいわかった国会対策の方は私が責任を持って抑える その為に幾ら金がかかろうがどんなに汚い金でも集めるつもりだ」 「我々警察は検察庁がどんなに恫喝しようがマスコミ世論がどんなに騒ごうが先生本人への金の流れは握りつぶします御安心を」 「それでは安心出来ない」 「はい、では」 「奴を抹殺しろ 必ずな」 「わかりました」 「政治家人生の最後が汚れ仕事か」 「申し訳ありません」 「さあ、会合に戻る、君は帰りたまえ」 「先生少々お待ち下さい 紹介したい者がおります 入りたまえ」 官房長の声に応じるように一人の五十ぐらいの男が入って来た 「先生にご挨拶を」 「なんだ警察官僚か」 「いえ、私は厚生労働省の」 「厚労省、畑違いだな 官房長どういうつもりだ こんな時に陳情の斡旋かね」 「いえ、先生の御身が心配なので、この者をつけておこうとおもいまして」 「護衛に困ってはいない」 「相手はあの男です どんな手を使ってくるかわかりません 私が常に注意を払えばいいのですが 官房長ともなると この男は大変切れ者です 先生の大変お役に立つと存じます」 幹事長はつらつらと男を見た 中年とは言えどこか青年の面影を残す美しい男である 身長は180センチぐらいの身体で細身に見えるが骨格はしっかりしている。
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