第9話本居の賭け

5/16
前へ
/336ページ
次へ
ここはモスクワ経由チェコスロバキア行き飛行機のビジネスクラスである 今井と名高が並んで座っている 名高は少し離れた前の席の若い男女を目を細めてみている 今井は言った 「カップルですね」 「いや、兄弟だ」 「恋人ですよ」 「違うよ」 「じゃあ聞いてみましょうか」 「いいよ意地になるなよ」 「すいませんつい」 「ところできこうと思ってたんだが」 「何ですか」 「君はこの世に超常現象が存在すると言う事を、信じていると言うより確信があるみたいだが」 「はい」 「何故?」 「体験者なんです」 「どんな」 その質問に今井はしばらく黙ってしまった 名高は言った 「無理に言わなくていい」 「いえ、信じてもらえないかもしれませんが 私は二親と妹を目の前で失ったんです」 「事故か」 「いえ、かき消すように消えました 信じられないでしょう まさに神隠しでした」 「確かに、しかしこう言う話を聞いた事がある 神隠しの隠すと言う言葉は見えなくする以外にもう一つ意味があるらしい」 「もう一つ」 「偉い人が死ぬと何て言う? 御隠れになると言うだろう つまり、神隠しの本当の意味は神が死を与えると言う説がある」 「何故ですか 神罰で殺されるって事ですか」 「何故か、誰でもそう思うだろう しかしそれは神が正当な理由がなければ害を与えないと言う考え方から来る 何故害を与えないか それは神が人の創造者だからだ つまり我々は無意識に進化説ではなく創造説を信じてるんだ しかし一方、極端なキリスト教右派でない限り我々はほとんど進化論を受け入れている 人間の祖先は猿と言う事も有り得ない分けではないと なのに心の中では神が自分達の創造者である事を望んでいるんだ それによって人々は日々の心の安定を得られる だから我々は理論的には進化論を受け入れながら心情的にはむしろ創造説によっているんだ だから神は人にとって正義しか行わないと言う感情を持つ もし完全に進化論を取るなら神は人にとって無関係な驚異的存在になる」 「では先生は神とは元来そういう者だと考えてるんですか」 その時機内放送が入った 『エマージェンシイー 緊急事態です 当機はこれより急上昇いたします 通路の方は座席に戻りベルトをしめ戻れない方はしっかり何かにおつかまり下さい」
/336ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加