第9話本居の賭け

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本部長首藤は長身で整った顔をしているがハンサムではない 癖がある顔なのだ シーマンに似ている 本部長は言った 「すわりたまえ」 本居は座った 「厚顔無恥とは聞いていたが、まさか一介の所轄署員が直接道警のトップに面談を申し込んで来るとは思わなかった はねのけてもいいんだが、ヤクの本居と呼ばれた男の精神構造に興味もあってね こう見えても忙しい 手短に要件を言って出て行ってくれないか」 「北海道警察本部 いわずとしれた日本極北での日本警察の最大拠点であり本部長は警察官僚の中でも凄腕と鳴らした者だけが着任を認められる しかし一方このポストについた者のかなりの確率がここで警察官を退官する したがって北海道警察本部長はキャリア出世双六の上がりポストとも言われている」 「失礼な男だな 私はこれ以上上にのぼらないと言う皮肉かな」 「本部長殿、あなたはこの地元出身ですね ここへの辞令を貰った時言われませんでしたか、お疲れ様 、後は故郷で羽を休めてくれと」 「警察官僚が故郷への切符を貰った時は何を意味するか 納得づくで北海道に戻ったんだよ」 「今から約9年前洞爺湖サミットの時地元警察を顎でこき使い負担を押し付ける警備局に対し当時警備課課長補佐のあなたは抗議した 警察官だって人間だ 牛や馬じゃないんだと」 「私の事を私以上に知ってるのは、どんな魂胆があってだ」 「しかし上司は言った 天下国家の問題に情など挟む余地はないと しかしあなたは引き下がらなかった そしてあなたは言った 故郷を踏み台にしてまで出世する気はないと」 「いい加減にしろ、今すぐここを出て行け顔も見たくない」 本居は机にUBSメモリーを置くと部屋を出ようとした 「おい君忘れ物だ」 「お土産です、ただしとじひもが強くて簡単には開きませんが」 「何だと」 「では失礼します」 本居がドアのノブに手をかけた時首藤は声をかけた 「かっとなって悪かった そう、あの時はまだ若かった そのまま福岡に飛ばされたよ、小さな田舎の所轄の署長としてね 君、毬藻羊羹好きかね」 「いただきます」 「じゃあこっちへ」 本居は応接セットに戻った 本部長は机の引き出しから毬藻羊羹の包装を取り出し開いて皿に乗せお茶と一緒に持って来た 本居は礼を言った 「すいません、機関紙で読んだんですが
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