第9話本居の賭け

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本部長殿は山越郡長万部出身だそうですね 子供の頃は随分ご苦労なされたとか」 「家は小さな牧場をやっててね 家の手伝いで幼い頃は牛や馬の糞尿まみれで頑張ってたよ 勉強する時間なんてなかったよな」 「それでも学年一番を譲った事はなかった やがて大学受験をする時を迎える あなたは本当は東大に行きたかった また合格する実力も十分だった しかし北海道大学を受けた 理由は父親の牧場を支援する実業家が北大出身で後輩になってくれと言うのを断り切れなかった 何度も台風や冷害で牧場経営はその人の支援なしでは1日も持たなかった しかしその人の事業も不景気になり、つがされるはずだった父親の牧場は閉鎖した。 自由になったあなたは旧国家一種を優秀な成績で合格し、旧大蔵省通産省を蹴り警察庁に入庁した。 警察庁は官庁としての格は低いが特殊性から飛び抜けて優秀な学生が集まる傾向がある 同期のキャリアはほとんど東大だった それでも試験での席順はほとんど首位だった 東大出身なら長官コースと呼ばれてもおかしくなかった」 「そう、東大出身ならな」 「現実は甘くなかった 官庁で出世するには経験ポストと言うポストをこなさなければならない しかし東大出身でないあなたを引いてポストにつけてくれる先輩はいなかった 階級は上がっても長官や総監への夢はどんどんしぼんで行った 絶対的な数の論理の前に他大学の人間はよほどラッキーでなければ最上層には入れない だから大概は局長程度で満足して退官する しかしあなたはあきらめなかった あなたは現場に目を向けた 普通のキャリアは現場にはあまり足を運ばない 先輩から睨まれるからだ しかしあなたには迷惑をかける先輩がなかった あなたはキャリアでありながら実務の腕を磨いて行った その手腕を公安が目をつけた 公安や監察は毛並みが良いだけでは務まらない しかし残念ながらキャリアは寄り付かない 公安や監察の腕利き捜査員達は自分達の意見を上に伝えてくれる実務に秀でたキャリアを探していた。 彼らの熱望であなたは彼らを率いる事になる 彼らの高い能力を得たあなたは次々手柄を物にする 他大学と侮っていた東大出身の上層部もあなたを無視出来なくなる あなた前に出世街道が見え始めた そしてついに警備局長に手が届く段階までいたる しかしここでとんでもない事が起こる
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