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「それにしても本当に驚いたよ。一体いつから後ろに居たんだ?」
ふと思い立った秀一の問いに、梨亜は事務的な口調で答えた。
「火土ヶ谷駅のホームで電車を待っている先生を見かけてから、ずっと後ろに居りました」
「待て待て! お前はストーカーか!」
「何を人聞きの悪い。念のためですよ。先生がもし、邪な気持ちでこの学園に忍び込もうとする賊だったなら、排除しなくてはなりませんから」
「いや、お前の方々よっぽど人聞き悪いぞ!」
「まあ、先生が一人でブツブツ自己紹介を始める痛い方だというのはわかりましたけど」
「そこには触れないでくれええ! ていうか、本当にどこで見てたんだ!? さっきは誰も……」
「私くらいになると、辺りの風景に溶け込めるんですよ」
「何だお前は! 忍びの者か!」
大仰な手振りでツッコミを入れる秀一に、梨亜が先ほどと同じく、口元だけで笑う。
「まあ冗談はここまでにしましょう。あなたの事は写真を見て知っていました。少しからかっただけですよ。ついてきて下さい。生徒会室へご案内します、にんにん」
「生徒会室? 職員室とかじゃないのか? あと、その語尾やめれ」
「……忍びキャラを演出したつもりなのですが気に入りませんでしたか、しょぼん。まあともかく、この学園では教師であれ生徒であれ、まずは生徒会室に挨拶を通すのが決まりなのです。ついてきて下さい」
それだけ言うと、梨亜はポケットからカードキーを取り出し、門の脇にあるリーダーに通す。
ゆっくりと音を立てて開いていく扉と、それを見つめる梨亜の後ろ姿。
それらを眺めながら、秀一はこれから先の生活への不安に胸をざわつかせるのだった。
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