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「なんだ、まだやってるのか……」
部屋で荷物を置いて戻ってきた秀一は、いまだ終わらぬもめ事にため息を吐いていた。
「あ、新任さん? ごめんね、いやなもん見せちゃって」
ふいに背後から声をかけられ、秀一が振り向く。
そこには、髪の毛を二つに結った小柄な少女がいた。
「あ、私は輪廻。銃条輪廻(じゅうじょうりんね)って言うの。よろしくねえ」
そう言って、輪廻が秀一の手を握ってぶんぶん振り回す。
「あ、ああ。僕は木戸秀一だ。よろしくな」
そんな人懐こい輪廻に対し、秀一は簡単に自己紹介を済ます。
「で、結局あれは何を揉めてるんだ? イーター絡みか?」
秀一の問いに、輪廻はあっけらかんとした表情を崩すこと無く答えた。
「ああ、えっとね。今泣いてる由梨ちゃんが昨日パトロール担当だったんだけどさ。イーターが出現した時に間に合わなくて、あの怒ってる叶絵ちゃんの友達が死んじゃったのよ」
どうも纏まりの無い話し方だとは思ったが、内容はきちんと秀一に伝わった。
「そうか……それは気の毒な話だな……。でも、イーターの移動速度は人間よりも早いんだし、不意に出くわしたら間に合わないのも仕方ないんじゃないか? あんなに怒られるのは理不尽だと思うが……」
「まあそうだよね。叶絵ちゃんの友達も、由梨ちゃんも、不運だったとしか言えないよね。でも、仕方ないよ。私達には力があるんだもん」
そう言って輪廻が、自分の手を見つめる。
「先生も知ってると思うけどさ、イーターに対抗できる力を持ってる人間は何故か極一部。それも完全に生まれつき。努力とかそういうのでどうにかなるものじゃないんだもん」
表情を一切変えずに語る輪廻の姿は、まるで何かを悟りきっているかのようにも見えた。
「もし叶絵ちゃんに力があったなら、命がけで戦って友達を守ってたかも知れない。でも、叶絵ちゃんにはそれすらできないんだから、力のある人間に怒りの矛先を向けるしか無いよね。うん、それは仕方ない」
そこまで話すと、輪廻は大きくため息を吐いた。
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