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「おや、いらっしゃったようですね」
先ほどまでざわついていた周辺の学生が、一気に黙り込む。
そして、その静けさに照らし出されたかのように、ゆっくりと土を踏みしめる足音が二つ。
明らかに異質な空気を纏ってこちらに近づいてくるそれに、秀一が向き直った。
一人は、銀髪のショートヘアに、ブラウンの瞳を持つ小柄な少女。
しかし、圧倒的な気配はもう一人の少女から放たれていた。
日差しを受け、まるで獅子のたてがみのように輝くブロンドが、肩を滑って優雅に踊る。
その瞳は湖のようなブルーに彩られており、ずっと見つめていれば吸い込まれて溺れてしまうのでは無いかと思うほどの深遠さを醸し出している。
制服からはち切れんばかりの豊満なバストとは対照的にキュッと引っ込んだウェストは、日々の節制に余念が無いことを示している。
見た目自体は梨亜より小柄ではあるが、匂い立つ存在感は、梨亜の遥か上をいっていた。
「光炎寺望花(こうえんじみか)……。うちの生徒会長です」
梨亜が、静かに秀一に告げる。
その表情は、緊張感にあふれていた。
「氷室……叶絵さんですね」
望花がゆっくりと、しかし堂々たる歩みで、叶絵に近付く。
そして、放心状態で立ち尽くす叶絵に、深々と頭を下げた。
「この度は大変申し訳ありません。私共の力が及ばなかったために、大事な友人を失うことになってしまいまして……。深くお詫びいたしますわ」
「い、いえ! 光炎寺様が悪いわけではありませんから! どうか頭を上げて下さい!」
先ほどまでギャーギャー怒鳴っていた叶絵が、彼女に対しては謝られて逆に慌てている。
光炎寺望花という少女が、この学園でよほどの地位にいるのだということが分かった。
「そうですか……。ありがとうございます。友人の詩子さんの魂が救われますように……。あなたの胸の痛みが少しでも消えますように……」
「はわっ!?」
祈るような言葉のあと、望花は優しく叶絵を抱き締めた。
ふくよかな胸に、叶絵の顔がすっぽりと埋もれる。
身体が離れた後には、叶絵は恍惚とした表情を浮かべ、腰砕けになって座り込んでいた。
「会長はこの学園では絶対的な方です。くれぐれも失礼のありませんように」
梨亜の忠告も上の空になる。
秀一はただ、その存在に釘付けになっていた。
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