第一話

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――今だ! その瞬間、叶絵も走り出していた。 友人とは逆の方向へ。 背後から、骨の砕ける音と声にならない悲鳴が聞こえてくる。 しかし、そんなことに構っている暇など、今の叶絵には無かった。 その鈍重そうな外見とは裏腹に、イーターの走る速度は普通の人間よりも遥かに速い。 他人のことに構って足を止めてしまえば、その先に待つのは死ばかりなのだから。 恐怖にすくみそうな足を懸命に動かして、叶絵はある場所を目指していた。 「もう少し……もう少しっ!!」 叶絵の友人を〝捕食〟し終え、背後から物凄いスピードで迫りくるイーターの姿に、叶絵は半狂乱になりながら走り続ける。 力を持たない人間がイーターに出会った場合、九割がた助からないのは前述の通りである。 だが、残った一割の希望は、叶絵のすぐ側に近づいていた。 「もうすぐ……もうすぐ……だっ!」 段々と迫ってくるイーターの息遣いに背筋を凍らせながらも、ようやく見えた希望の砦に、叶絵の疲れきった足も奮い立つ。 迫るイーターを振り切り、息を切らせてたどり着いた小さな〝兎小屋〟の金網にしがみつき、叶絵は渾身の声で叫んだ。 「助けてっ! お願い!」 その声に反応し、兎小屋の中で真っ白な物体がもぞもぞと動く。 ウサギと一緒に丸まって眠っていたソレは、真っ白なロングへアに純白のフリルドレスを纏った少女。 その瞳は、まるでルビーのように赤く輝いていた。
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