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「ねえ早く……早く助け……っ」
もうすぐそこまで追いついて来たイーターに、叶絵の表情が必死さを増す。
涙と汗と崩れたメイクでぐしゃぐしゃになった顔で背後を見れば、イーターがその大きな口を開き、叶絵を捕食しようとしていた。
「いやあああああああ!」
巨大な牙が眼前に迫る。
もはやこれまで、と瞳を閉じる叶絵であったが、その牙が彼女の身体を傷つけることは無かった。
――ばちこーんっ!
刹那、夜闇にそぐわぬ軽快な音が空気を震わせ、イーターの巨大な身体が大きく吹っ飛ばされる。
涙で霞んだ叶絵の瞳が映し出したものは、先ほどまでウサギ小屋で丸まっていた少女の姿。
しかしその身体は万有引力を無視してふわふわと宙に浮いており、その右手には巨大な杵を携えていた。
「うにゅう……我が眠りを妨げるものは誰……すぴー……」
派手に登場しておきながら、口上の途中で瞬時に寝息を立てる少女。
もはや叶絵は、沸き上がる様々な感情を処理することが出来ず、ただ呆然とその光景を見つめるばかりであった。
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