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抱き上げられ、かなり近くで声が聞こえて、その緊張から口走った命乞いの言葉。乱暴な男は、それに対してまた怒声を上げそうになったが、それは小屋の扉の開閉で遮られた。
「アッカァン、びっちゃびちゃやで!」
強まる雨音。暗闇の中から聞こえる別の男の声。ミツはそちらを見て居たが、急に身体が床に放り投げられて驚いた。
「予定の時刻はとっくに過ぎてんぞ!」
「うわ!何や、おったんかいな」
乱暴な男と、後から来た別の男が話して居る最中、バシャバシャと水を蹴る足音が近付く。
「ひゃー、ひでぇ雨だなこりゃぁ」
暗闇、聞き馴れない男達の声。ミツは言い知れ無い不安を覚え、部屋の奥に逃げる――そして、床の穴に落ちた。
「何や!?」
「馬鹿!」
床下は、そんなに高く無かった。しかし、落ちた先は雨水で出来た水溜まり。ミツは水溜まりの中、泥まみれで呆然として居た。
「おい、てめぇ馬鹿なのかブス!」
床下に降りて来たのは乱暴な男で、呆然とするミツにまたしても暴言を浴びせる。それでも、彼はミツを引っ張り起こして床下から上がった。
(え?今、どうやったの?)
不思議な感覚だった。言うなれば、エレベーターの中に居る時に味わう浮遊感に近い。
――抱えたまま飛び上がった。
その考えに至り、ミツは部屋に戻った瞬間に男を突き飛ばした。構えて居なかったせいか、男は床下に落ちて行った。
「ちょ、何してはるん?大丈夫?」
暗闇の中では何が何だか分からない。ミツは、落ちたショックもあってパニックを起こしており、最早冷静では無い。フラフラしながら部屋を歩き、わずかに明るい扉の方に向かって行く。
「ちょちょちょちょちょ、待ちなはれ。ドコ行くつもりやねん」
しかし、腕を掴まれた。振り払う。また掴まれる。振り払う、また掴まれる、振り払う。
「何やねん、おもろい事せんといて!」
「てめぇぇぇっっっ――!!」
床下から這い上がって来た乱暴な男の声を聞き、ミツは身の危険を感じて走り出した。扉まですぐだ、もうすぐ、もう出られる、扉を掴んだのに――。
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