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馴染みの喫茶店で、仲睦まじく会話する男女。一人は、これから訪れる自分の運命など知らない物語の主人公。名前を、甘井ミツという。
日本人特有の黒い髪に、茶色い瞳。黄色人種ではあるが、外に出回る事が多かったミツの肌は、よく日焼けした小麦色だ。情報を付け足すと、146㎝という低身長である。
「昨日ね、前から言ってた例の映画を見たの。凄く面白かったよ」
「へー、そうなんだ」
一緒に居る男性は、ミツの恋人。24歳になるミツにとって、人生で何人目かの恋人だったが、"この人とは結婚出来る"という確信を持って居た。
「主人公の男の人は小人族なんだけど、変な指輪を」
「ミツ、ちょっと良い?」
昨夜観た映画の内容を熱っぽく語ろうとしたミツだったが、恋人の重々しい声が、ミツの言葉を詰まらせた。
「な、何?」
精一杯の笑顔だった。ミツは、その重々しい声が先に紡ぐであろう言葉を予想して居たからだ。
「あのさ」
恋人は、言葉を濁すように水を一口飲む。口に含んだ水を転がし、口の中を冷やして、それから言葉を放った。
「お前と居ると疲れる。お前のファンタジックな趣味に付いて行けない。もぉ終わりにしたい、別れてくれ」
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